社内でSREを広めるのに苦戦しているSREsにITIL 4がいい感じっぽいので共有したい

これは SREアドベントカレンダー 2022 - Qiita 2日目のエントリです。

昨日は みのるん☁️(@minorun365)さんLet's see AWS W-A "Reliability Pillar" from SRE's view でした。

TL; DR

  • SRE的な取り組みを社内で広めていくにあたり、自チームから外への普及に苦戦しているのであれば、ITIL 4が助けになるかもしれません
  • "ITIL" のいいところは、歴史と権威があるところ、ガッツリ言語化されているところで、 "ITIL" の残念なところは、古臭い、柔軟性がなく堅苦しく固定的、実践的かどうかより手続き重視というイメージだった(個人的な印象)
  • ITIL 4について知ったところ「"ITIL" の残念なところ」が払拭された

Disclaimer

  • ITIL 4の資格を取得したりはしていません
  • わたし自身が特段ITIL 4に詳しいわけではないので一緒に学んでいきたい

"社内でSREを広めるのに苦戦しているSREsにITIL 4がいい感じっぽいので共有したい" ってどういうこと

タイトル "社内でSREを広めるのに苦戦しているSREs" ではこんなシチュエーションを想像しました。

  • ボトムアップ・草の根でSRE(的な取り組み)を導入・実践している
  • 個人レベルでは、まあまあできている
  • チーム内でもSREが認知され、定着してきた手応えがある
  • だけどチーム外では、、、正直なところあまり認知・活用されていない
  • 本当は組織レベルの構造や力学も変えていきたいけど、あんまり手応えがない

例えば、こんなことが起きていたり、、、

  • SLI / SLO / SLAを定義してみたものの、チーム外では判断に活用されていない
    • SLIに反対はされていないけど、SLIの変動が仕事の優先順位の参考になっていない
    • 配属やチームアサインにおいてSLIが判断基準にされていない
  • 自分たちの活動の方向性や価値をいまいち言語化しきれていない
    • 上長やチーム外メンバーとのコミュニケーションにおいて自分たちの思想や意思、立ち位置、ロードマップなど抽象度が高いものでしか会話できておらず、実践のイメージを共有できていない

ちょっと心当たりがあるような気がしたりしなかったり、、、しますよね。

(わたしが思う)SREとITIL 4の考え方の大きな違いは「組織構造・力学を所与の制約条件として捉える強さ」です。 SREは "組織の構造や力学を含めた変革はスコープ内" ですが、 ITIL 4は "組織の構造や力学を含めた変革はスコープ外" としている印象です。

となると、ボトムアップでチーム外を巻き込んでいくときにはITIL 4のほうが現実に即していて受け入れられやすいように感じます。 それに、チーム外ということはSREやIT運用に知見の少ない人が増えてくるわけで、ITIL 4の言語化やプラクティスの整理、あるいは歴史や権威が役に立つ気がしませんか?わたしは「コレいいんじゃないの!?」と思ってます。


ITIL 4ってなんぞ?

ITIL(アイティル:Information Technology Infrastructure Library)はITサービスマネジメントやITアセットマネジメントのベストプラクティス集です。

ITILは、ITIL v2が2001年にリリースされました。その後ITIL v3が2007年にリリースされ、2011年に改訂されました(2011 edition)。 そして2019年にITIL 4がリリースされました。なおv4ではなく4とのこと。

ちなみにDevOpsを提唱した有名なプレゼン 10+ Deploys Per Day: Dev and Ops Cooperation at Flickr が2009年、SRE本が2016年発売です(日本語版は2017年発売)。 またAWSの東京リージョンが2011年利用開始です。

2009年〜2020年はサービス運用の常識がガラッと変わった時代でした。 そんな中で変化に乗れていなかったITILですが(個人的な印象です)、ITIL 4ではDevOps、リーン、アジャイル、クラウド、自動化、AIなどの要素を取り込み、なんというか現代の現実に即した前提になりました。

ITIL 4よりも前のイメージだと、界隈が資格商法や権威ありきのツール販売が色濃くて、提供者の論理が強くて実践的にユーザ価値に寄与する感じがせず、そそられない・遠ざけたい・遠ざかりたい感じでした(個人的な印象です)。

どうもITIL 4は、ITIL v3やITIL 2011 editionとは前提から違う、別物のようです。 わたしの印象にある "ITIL" は主にv3・2011 editionだと思います。

ITIL 4はどう変わった?

以下を読むだけで、ITIL 4に期待が高まります。よね?

  • ITIL 4は思想のコアに "提供者と利用者の価値共創" "継続的改善" が据えられている
  • ITIL 4が提唱する、7つの "従うべき原則" がある
    • 価値に着目する
    • 現状から始める
    • フィードバックをもとに反復して進化する
    • 協働し可視性を高める
    • 包括的に考え取り組む
    • シンプルにし実践的にする
    • 最適化し自動化する
  • ITIL 4のスコープは計画・構築・提供・改善とフルサイクル
    • 基本行動は 1.収集・記録、2.分類、3.評価、4.行動、5.振り返り(事後評価、学び)

わたしはこれを見るだけで「ヨシ!ITIL 4勉強してみるか!」ってなります(なりました)。

従うべき原則、全部いい。全部いい。

ITIL 4名言集(ピックアップ)

というわけで期待値MAXのITIL 4です。 わたしがイイネと思ったポイントをピックアップします。

  • ITサービスを提供するということは利用者と価値を共創することである
  • 「 組織と人材 」、「 情報と技術 」、「 パートナとサプライヤ 」、「 バリューストリームとプロセス 」の4つの側面を総合的に評価・検討することで効果的・効率的に価値を評価・改善できる
  • サービス価値は有用性と保証の2要素で構成される
    • 有用性はサービス利用者のパフォーマンスをサポートする・サービス利用者の制約を取り除くという側面がある
    • 保証は可用性・キャパシティ・セキュリティ・継続性という側面がある
  • サービスバリューを継続的に実現するために、7つの従うべき原則がある
    • 価値に着目する、現状から始める、フィードバックをもとに反復して進化する、協働し可視性を高める、包括的に考え取り組む、シンプルにし実践的にする、最適化し自動化する
  • サービスバリューを継続的に実現する構造は、従うべき原則、ガバナンス、サービスバリューチェーン、継続的改善、プラクティスの5つの要素で構成されている

このあたりを踏まえると "SRE導入" で達成したいこととITIL 4のゴールのイメージが似通っている感じがします。

ITIL 4の違和感

例:自社サービスの世界観からするとサービス消費者の分類が独特

ITIL 4では サービス消費者ユーザ 顧客 スポンサー の3つの役割で構成されます。

  • ユーザ :サービスを利用する担当(役割)
  • 顧客 :要件を定義し、システムを利用した成果を評価・確認し、また成果に対して実行責任を持つ担当(役割)。典型的にはCIO
  • スポンサー :サービスの消費にかかる予算を承認する担当(役割)。典型的にはCFO

サービス消費者との価値の共創関係を前提にしない場合、このたてつけに強いサイロや対立関係を感じるわけです。しかし価値の共創関係を前提とすると(名前はともかく)分解するとこういう役割があるというのはそれなりに納得がいく話です。

他のステークホルダーとしては サプライヤ というのもあります。 自分たちが提供するサービスに対してリソースを提供してくれる外部サービスのことで、典型的にはAWSやGCPです。

割と一事が万事こんな感じで、同じ言葉だけど自社サービス前提の世界観とは違う意味で使われている用語があったりして要注意です。 このエントリの最後にお手製の基本用語集を置いてますのでご参考まで。


参考書籍

どうも原典はフリーアクセスではなさそうですが、参考書籍があるので紹介します。 (知識がオープンじゃないところが普及の妨げになっているように感じていて、これはわたしの中で "ITIL" の古臭い固定的なイメージを形作ってきた大きな要因のひとつです)

いまのところ一番のお勧めは 【ITIL4公認】ITIL 4の基本 図解と実践 です。

なんと、SREについてまるまる一章かけて言及しています(第7章)。サービスマネジメントSREを提唱し体系や取り組みをまとめています。 わたしは違和感と共感がどっちも湧いてきてすごくよかった。

わたしのお勧めの読み方は、まず概論の第1章・第2章を読む。次に第7章〜第9章で周辺や流れを知る、最後に頭から読み返す、です。 各プラクティスの詳細は、順に頭に詰め込もうとするとつらくなりがちですが、フレッシュな気持ちで予断なく読むとそれぞれ参考になると思います(個人的な印象です)。

ITIL 4のプラクティスに着目してしまうと、その量に圧倒されます。 プラクティスはそれはそれで重要ですが、全体観からすると後回しにするのがよいと思います。 お勧めは、個々のプラクティスの詳細・具体的な内容よりも、まずは大前提である概論・理念をしっかり押さえることです。

なお、わたしは以下の順番で読みました。単に発売日順です。

わたしの場合は試験対策本を試験対策として読むと飽きてしまうので、普通に参考書籍として読みました。 理論や理念を理解するのは好きなのですが、プラクティスを暗記するのはすごく嫌なのですよね。実践するときは記憶頼りだと危ないからドキュメント見るんだし、試験でもドキュメント見ればいいじゃんって思ってしまう。

  1. ITIL 4の教本 ベストプラクティスで学ぶサービスマネジメントの教科書
  2. IT Service Management教科書 ITIL 4ファンデーション
  3. 【ITIL4公認】ITIL 4の基本 図解と実践

というわけで、SREの普及・浸透に課題を感じたときはITIL 4のことも思い出してみてください!


おまけ: 基本用語集

ITIL 4 Keywords


See also